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8-17 芽生えたもう一つの嫉妬心 1

last update Last Updated: 2025-06-01 13:40:00

 翔達は二次会の会場が開かれるまでの間、ホテル側から借りた控室に集められていた。

「……」

翔は長テーブルの前に座り、右手で頬杖を突きながら、左手の人差し指をずっとトントンとテーブルを叩きながら足を組んでいた。

「おい、やめろ。翔、さっきからその恰好、こっちの気が散ってしょうがない。お前イライラするとその癖が出るのは昔から変わらないな」

翔の隣に座った琢磨がコーヒーを飲みながら文句を言う。

「そういうお前は、どうなんだ? さっきから何度も腕時計を見てはため息ばかりついてるじゃないか。大体この会場へ入ってからお前、どの位コーヒーをお代わりしているのか分かっているのか?」

翔は琢磨を見た。

「え?」

言われて琢磨は初めて気が付いた。琢磨のテーブルの上には空になった紙コップが5個以上並べられている。

「……」

琢磨は無言で並べられた空の紙コップを重ねると、近くにあったダストボックスに投げ捨て、再び席に座ると深いため息をついた。

「おい、翔……」

「何だよ……」

「お前、気にならないのか?」

「何が?」

翔と琢磨はお互い、視線を合わさず正面を向いたまま話を続ける。琢磨は翔の気の無い返事に失望し、それ以上口を開くのをやめた。

「「……」」

少しの間気まずい沈黙が流れたが、ついに我慢できず翔は舌打ちした。

「くそっ……! 二階堂先輩め……余計なことを…」

その台詞を琢磨は聞き逃さなかった。

「何だ、翔。やっぱりお前、気になっていたんじゃないか?」

「何のことだ?」

ギロリと睨み付けると、琢磨も真正面からその視線を受け止めた。

「朱莉さんがお前の秘書と一緒にホテルを出たのが気に入らないんだろう?」

翔はその言葉にピクリとなった。

「どうだ? 図星だろう?」

「そう言う琢磨……。お前だってどうなんだ? 朱莉さんが修也と一緒に帰る後姿を恨めしそうに眺めていたのを俺が気付いていないとでも思ったのか?」

翔の何処か喧嘩腰の口調に琢磨はカチンときた。

「う、うるさい! 大体、翔……お前よくも今迄俺や明日香ちゃんをずっと騙してきたな?」

「騙してきたなんて人聞きの悪いこと言うな。大体何故今迄俺が教えるまで気付かなかったんだよ」

「あのなあ……あんなにそっくりなら分かるはず無いだろう? 大体お前とあの各務って男は背格好はほとんど変わりないし、声だって似てるじゃないか。今迄何回位入れ替わってき
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